ボリス・ヴィアン「心臓抜き」

心臓抜き (ハヤカワepi文庫)

心臓抜き (ハヤカワepi文庫)


精神科医ジャックモールは実験をするための場所を探していた。


とある田舎を訪れた時、一つの家から叫び声が聞こえた。
叫び声の主は産気づいた女だった。
ジャックモールは女の出産を手伝い、三つ児を取り上げた。
ジャックモールはその家の居候となり、この田舎で精神分析を始めることにした。



しかしこの田舎の村は吐き気がする風習に満ちていた。



広場では老人を売る「老人市」が開かれ、競りでは老人たちは精神的にも肉体的にもひどい暴力を受けていた。
職人の元で働く子どもは虐待を受け、命を落としても物のように捨てられている。


そして、ラ・グロイールという男に出会う。
彼はこの村全体の恥を消化するための存在。
村人が犯す罪や悪徳を、恥をすべて請け負う代わりに、多くの金を与えられている。
しかし、多くの金を持っていても誰も彼にものを売ることはない。
そしてラ・グロイールはこの村に滞在することになったジャックモールに言った。

「それでは、あなたも他の連中とおなじにおなりでしょう」
「あなたもまた良心の呵責を感ぜず生きていかれるでしょう、そしてわたしにあなたの恥の重みを転嫁なさるでしょう。」(p.65)



ジャックモールはこの村に嫌悪を抱きながらも滞在をし、月日は流れていく…



……


さて、ジャックモールは、ラ・グロイールに言われた通りになってしまうのでしょうか―



あらすじを書いてみようと試みましたが、なかなか難しいです。
ジャックモールは主人公ですが、三つ児の母親が凄まじい。


子どもたちへの愛情から、
強迫観念に駆られ病的な過保護になっていく様は恐ろしい。
読むに堪えない行為をも母親は自らに課していく。
おぞましい行為を子どもたちのため行えば、子どもたちへの愛が深くなると信じて…。
病んでいく母親。
子どもが歩けるようになるのも、
外に出るのも心配で胸が張り裂けそうになる。
彼女は子どもたちを守るため考えを巡らせて、
行為はエスカレートしていく…。


ラストの、鍛冶屋の少年―この子もまた過酷な環境での労働を強いられている―が、三つ児の家を訪れた時、この家に愛と幸福を見出すシーンは、愛ゆえに苦しみ続ける母親への、慰めでもありました。




・・・
胸糞悪かったり、グロテスクだったりするのですが、そういうのに耐性がある人に読んでみてもらいたい。